舞台は溶暗し、男女の声が聴こえる。
やがて仄かに明るくなる。
こびとが旗を上げ下げする影が映る。
病人の男とオレンジの服の女が会話してる。
おなじみ「アンズルニ」の1シーン。
もちろんキャラクターを操ってるのはこびとさんだ。
旗を「0,1,0,1」と振っている。
頭がウルトラマンなのは、気のせいだ。
(旗振ってる 旗振ってる………)
(旗振ってる 旗振ってる………)
「アン・ズルニ。……」
「アン・ズルニって 誰?」
「女の人でしょ、アン・ズルニっていうくらいだから。」
「呼んで呼んで! アン・ズルニ――――」
「や、呼ばないでおこう‥‥呼ばないことにしてるんだ」
「それはまた!」
「長良川に行った時のこと覚えてる?」
「ああ、ひよこに乗って鵜飼を見に行った時」
「おまえが「ひかりで行くの?こだまで行くの?」
なんてふざけたこと言うから」
「ひよこに決まってるじゃん。
何? 知らないの?
ひよこは時速30万kmで飛んでるんだよ。
うそだろって? 目に見えないほど速いんだよ」
「でも乗ると重さの分のろくなるから、
結局30万÷6000=時速500kmで長良川へ向かった。」
「あれってぢゅうに゛ぢが優勝した時に飛び込んでも平気なように、
自転車とかを鵜に拾わせてたんだよね。」
「そうそう。で、ぢゅうに゛ぢだ。
みんなどこも負けが込んでくるとヤケクソになってくる。
ヤケになると決まってだく点が入るんだ」
「よごばばベイズダーズ
びろ゛じま゛ガーブ」
「で、だく点が入ったぢゅうに゛ぢは、
馬車がかぼちゃに戻っちゃった。
王子さまは12時過ぎても踊ってんのか?」
「夜通し踊り続けるので、動きやすい靴で来て下さい。」
「受付でガラスの靴をチェックされて、アン・ズルニは困った」
「これ、あぶないですね――。はいれませんよ」
「あ゛―――!!」
「アン・ズルニは呼ばれない。」
「「死にそうになったおじいさんが、
息子や娘や親しい人を枕元に呼ぶ。
「孫は、孫はまだか‥‥」
だが、アン・ズルニだけは呼ばれなかった。」
「アン・ズルニを呼ばない。」
「亡くなった人の霊を呼び出すおばあさん
「おばあさんおばあさん、アン・ズルニを呼び出してください」
「……○△×※☆……あー、この方は まだ来られてないようですね」」
「アン・ズルニを呼ばない。」
「銀行の受付が」
「病院の受付が」
「出席をとりまぁす!…
…「アン・ズボンさん」
…「アン・ゾルゲさん」……」
「アン・ズルニを呼ばない。」
「王子様は踊り続ける。
五十音順にステージが上がる。」
「江東区民まつりで踊っている王子様。」
よ「ヨドバシカメラで踊っている王子様。」
ろ「ロンドンで踊っている王子様。」
ん「ンジャメナで踊っている王子様。」
(旗振ってる 旗振ってる………)(旗振ってる 旗振ってる………)
人の営みがある限り、
ゲームが続く限り、
こびとの仕事に終わりはない。
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